その言葉を初めて耳にしたのは4月、兵庫県警で窃盗犯を扱う捜査3課を取材した時だった。
「あれは『ノビ』や」
ノビ。刑事たちは「忍び込み」の手口をこう呼ぶ。
住人が出かけた隙を狙う「空き巣」と異なり、住人の在宅中に侵入して金品を盗むのが「忍び込み」だ。
神戸市の郊外で古い一軒家が狙われる連続窃盗事件が起き、被害者の男性に取材した。
男性は昨年12月の深夜、妻と寝ている間に忍び込みに遭い、廊下で窃盗団と鉢合わせしたという。
「言葉にできない恐怖」。男性はそう振り返る。
声をあげて男らを家から追い出し、幸いけがはなかったが、記念日に夫婦で買ったロレックスの時計や現金計300万円相当が盗まれた。
県警はこの事件を含む約50件の窃盗事件に関わった窃盗などの疑いでベトナム国籍の男4人を逮捕、送検した。
警察庁の統計では、昨年認知した侵入窃盗4万4228件のうち「空き巣」が1万1842件(26.8%)を占めるが、「忍び込み」も4625件(10.5%)あった。
家人がいる中でなぜ、あえて侵入するのか。県警によると、「人がいる=財布がある」可能性が高く、リスクは高くても空き巣より現金を盗みやすい、と考える窃盗犯もいるという。
では就寝時に財布を枕元に置いておけばよいのかというと、そうでもないらしい。鉢合わせしたとき、盗みを完遂させるため住人を殴るなどする「居直り強盗」になる恐れがあるという。
「大事なのは『この家は忍び込めない』と思わせること」。県警幹部は訴える。警備会社のホームセキュリティーは費用がかさむが、人が来ると光るセンサーライトや、踏むと音が出る防犯砂利は、比較的安価で備えられる。
被害男性も事件後にホームセキュリティーを導入し、自宅には警備会社のシールが何枚も貼られていた。
闇バイト強盗などが各地で起きるなか、「二度と同じ目に遭いたくないから」。男性の思いは切実だった。